概要

社債市場において企業の信用度を把握する際には、社債スプレッドを クレジット・リスクの指標の一つとして捉えることが多いが、信用リスク のモデルを介することで社債データは累積期待デフォルト確率やハザー ド率として捉え直すことが可能となる。これにより、社債スプレッドは より直感に訴えうる指標として捉え直されるだけでなく、多面的な信用 リスクのモニタリングも可能にする役割も果す。 本論文では、社債スプレッドからクレジット・リスクを抽出する方法につ いて、?Duffie-Singleton モデル(Du.e and Singleton[1999]) と?Jarrow- Lando-Turnbull モデル(Jarrow, Lando and Turnbull[1997], Kijima and Komoribayashi[1998]) から算出される期待デフォルト確率を分析をして いる。このうち、Duffie-Singleton モデルでは、ハザード率のモデルとし て、(1)指数ハザード・モデル、(2)Weibull ハザード・モデル、(3) Vasicek ハザード・モデル、の3 種類のモデルを用いることで、期待デフォ ルト確率に対する理解を深める。 結果、?Duffie-Singleton モデルと?Jarrow-Lando-Turnbull モデルの 比較では、どちらのモデルも同じスプレッド・データを利用しているこ とに加え、Jarrow-Lando-Turnbull モデルでは格付け推移の更新頻度が低 いこと、などから両モデルから得られる期待デフォルト確率に大きな差 は見られないことがわかった。 また、Duffie-Singleton モデルのハザード率モデルでは、(1)指数ハ ザード・モデル、と(2)Weibull ハザード・モデルは、ハザード率がリ スク・ファクターを持たないため現実から乖離する仮定をおいている反 面、比較的安定した結果が得られた。一方、(2)Weibullハザード・モデ ルでは、ハザード率の期間構造から、高格付けの社債はスプレッドを過 大評価することで、将来的なデフォルト率の上昇を現在時点で織り込ん でいる一方、低格付けの社債は、スプレッドを過小評価することで、将 来的なデフォルト率の低下を現在時点で織り込んでいることが窺われた。 一方、(3)Vasicekハザード・モデルは、ハザード率を確率過程でモ デル化することから、リスク・ファクターを含んだ確率論的なモデルで ある反面、パラメーターの安定性が確保されない等の問題があった。