I.活動の基本方針

1.現状と課題

この報告書が主たる対象とする本学部・研究科の活動は,2005年4月以降の2年間である。その始まりは,厳しいものであった。それは,国立大学が法人化されたことを契機に,文部科学省からの通達により,2005年度以降,中期計画期間中は,人件費を年々 1 % 削減する方針が打ち出されたことによる。そして,大学全体がその対応に追われることになった。本学部・研究科においては,2005年7月の教授会において,次の対応策が承認された。

(1) 助手の新規採用は見合わし,その分は非常勤職員の採用で対応する。
(2) RNPの採用人事は停止する。
(3) 200番台・400番台コア科目担当者の任期付き任用は,平成18年度をもって停止する。これらの科目の担当は,通常のスタッフに徐々に移行する。
(4) 部門の後任人事は,少なくとも1年間遅らせる。なお,候補者は,200番台・400番台コア科目を担当できる者とする。
(5) 部門の空きポストの人事については,まず,平成18年度あるいは平成19年度の採用計画を出してもらい,全体の人事計画との関連で,人事を行う時期を決める。なお,候補者は,200番台・400番台コア科目を担当できる者とする。平成20年度以降の人事計画については,平成18年度に提出してもらい,あらためて協議する。
(6) 状況が好転した場合には,上記の制約についてあらためて検討する。

さらに,同年10月の教授会では,非常勤講師の採用についても,削減のためのガイドラインが設定された。これらの方針は,2006年度に入っても受け継がれてきている。

われわれを取り巻く状況は,上記のように厳しい一方で,研究面においては,21世紀COEプロジェクトである「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」および「社会科学の統計分析拠点構築」や,大型の科学研究費により,計量経済学,医療経済学,国際経済学,ゲーム理論,地域研究などさまざまな研究が精力的になされている。このように,法人化の光と影が交錯しつつ推移したというのが,この2年間の状況であるといえよう。

他方,本学部・研究科が取り組んできた教育上の主要課題は,はしがきにも述べたように,学部と大学院教育の一体化をさらに推進するものであり,長年にわたる活動を強化する内容であったといってよいであろう。特に,大学入学から5年間で,学士号および修士号を取得して高度職業人の道を歩む人材を育成するために「5年一貫教育システム」が創設され,2006年3月には,最初の卒業生を社会に送り出したところである。現在のところ,提供するプログラムは,「統計・ファイナンス」,「公共政策」,「地域研究」の3分野と,特に分野を指定しない「一般」であるが,今後は,より多くの専門分野がプログラムを提供できるような環境を整えたい。この制度では,修士課程を1年間で修了するために,学生は多大の努力を要するが,苦労する分だけの効果がもたらされるように,われわれも相応の努力を払い,制度の充実と改善に配慮していくことが求められるであろう。

また,2006年度には,概算事業「統計・計量分析の新たなプログラム開発と高度実証教育」が始まった。これは,経済学の従来の分野における経済データの実証分析に関する高度な大学院教育を推進すると同時に,金融工学や環境経済学を含む経済学の新たな分野におけるデータをデータベース化して,適切な統計分析手法を開発し,教育を行うことを目的としたものである。4年間の継続事業であり,契約教員等を雇用して,新たな教育プログラムを開発しているのが現状である。

学生の教育においては,卒業という出口だけでなく,入学という入り口を考慮することも肝要であるという観点から,本学部では,学部入試のあり方についても前向きに検討してきた。多くの大学,学部で分離分割入試の後期日程を縮小する方針を打ち出している中で,将来的にも後期日程を従来通り行うことを2006年7月の教授会で決定した。本学部においては,後期日程の受験生は,前期日程とは母集団がかなり異なっている現状を踏まえ,理科系出身の受験生にも今まで以上に門戸を広げることにより,多くの優秀な学生を確保できるという判断によるものである。

われわれ教員の組織や,そのあり方についても,法人化を契機として変わろうとしている。このことは,一方では,学校教育法の改正に連動していることであり,2007年度には,小講座制の廃止,助教授を准教授に,助手を助教と助手に分離改組することが決定されている。この中で,本学にとっては助手制度の変更が重要事項であり,大学執行部は,現在の助手は全員を新助手に移行する方針である。また,他方では,中期計画や中期目標に盛り込まれた評価制度の導入が議論されている。これは,教員だけでなく,助手も含めてのものであり,どのような形での評価が望ましいか,数値的な評価の可能性,給与への反映などの問題が扱われている。将来的には,教員や助手個々人が,業務内容と実績に基づいて明示的に評価されることになるであろう。ただし,それは,あくまでも,業務の改善に資する形で行われるべきであり,評価される側が納得の行くような評価がなされるべきである。

上記の他にも,法人化を契機として,現行制度の改革が今後もさまざまな形で日程に上っているが,このような変化を通じて,中期目標や中期計画に掲げた本学部,研究科の研究教育の課題の実現を図っていきたい。