I.活動の基本方針

5. COEにおける活動

<21世紀COEプロジェクト「社会科学の統計分析拠点構築(Hi-Stat)」活動報告>

本プロジェクトは経済研究所の齋藤修教授を拠点リーダーとして,平成15年度からスタートした。本年度で4年目であり来年度で終了予定である(継続申請予定)。全員で16名から構成されており,経済学研究科からは,4 名の教員(大橋,山本,斯波,黒住)が参加している。他のメンバーは経済研究所11名,商学研究科1名である。一橋大学の統計分析拠点という意味で,Hi-Statという略称を用いている。以下ではまず本プロジェクトの概略を紹介し,次に活動報告を行う。

本プロジェクトで遂行される研究は,以下の3つの分野にまたがる。第1は,統計データを利用する経済学,および人口学等の関連社会科学における高度実証研究分野である。ここには集計量を研究対象とするマクロ分析と,ミクロ・データを利用して人びとの行動パターンを研究するミクロ分析の双方が含まれる。第2は,それらの実証分析ための統計学・計量経済学の理論的研究である。第3に,歴史統計(人口統計・マクロ経済統計)の整備・推計と,それに関わる数量経済史研究である。実際の活動は組織全体をデータ・アーカイブと3つの研究グループ(マクロ分析,ミクロ分析,統計理論)に分けて進められている。

ミクロ班では,経済研究所附属社会科学統計情報研究センター・ミクロ分析セクションと共同で,政府ミクロ統計データの利用促進を行うと同時に,独自集計を行い,「農家経済調査」のデジタルデータベース化,「就業と生活について」のパネル調査等を実施した。共同研究のネットワーク構築の一環として,慶應義塾大学21世紀COEプログラム「市場の質に関する理論形成とパネル実証分析」,家計経済研究所等との研究協力を推進した。マクロ班では,アジア長期経済統計シリーズ第1巻『台湾編』(東洋経済新報社)を刊行予定である。また『日本編』の推計作業を推進している。さらに,JIPデータベースの改訂版(2001年までカバー,93SNA対応)の作業を進めている。研究トピックとしては,日・韓生産性比較,EUの通貨統合とアジアのそれとの比較等の実証研究を進めている。なお本COEプロジェクトで作られた種々のデータは,当プロジェクトのホームぺージ上で公開されている。統計理論班では,パネルデータの計量理論研究として,動学的なパネル・モデルにおける種々の問題を扱ってきた。官庁統計に関する研究としては,特殊なサンプリング構造(ローテーション・サンプリング)等についての問題を取り上げて研究を行った。

前回の活動報告書以降から現在まで(すなわち,平成16年10月から平成18年9月末までの2年間)の研究集会等の活動状況・成果は,以下のようにまとめられる。全体集会2回,研究会46回(この中には,国際コンフェレンス,研究セミナー,レクチャーシリーズ等の研究(教育)集会が含まれる),ディスカッションペーパー145巻(41号-185号)。

一方,本プロジェクトの重要な役割に大学院教育に関する積極的関与がある。本年度より大学院経済学研究科にリサーチワークショップ「社会科学統計分析」を開講した。 経済学研究科の比較経済・地域開発専攻を中心に,博士課程の大学院生,ポストドクトラル・フェローを対象に,データ解析のスキルに関しオン・ザ・ジョブ・トレーニングによって教育している。関連した学生のうち5名強は,すでに博士学位を取得し,アカデミックな職等に就職した。

なお本プロジェクトの活動状況ならびにこれからの予定について,より詳しくは,以下のURLを参照されたい。

http://hi-stat.ier.hit-u.ac.jp/


<21世紀COEプロジェクト「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」活動報告>

このCOEプロジェクト(COE/RES)は,現代経済システムの規範的評価と社会的選択に関する世界的な研究・教育ネットワークの形成を目指して,2003年に開始された。ここでいう経済システムとは,経済の制度的枠組み,所与の制度的枠組みを前提してプレーされる経済的ゲームのルール,所与の経済的ゲームのプレーヤーが選択する戦略プランないし政策シナリオを包括する重層的な概念である。この意味の経済システムには,歴史的に生成され,競争的淘汰過程を経て徐々に根付いてきた自生的な秩序であるという進化論的な側面と,民主的に形成された規範的評価に基づいて,理性的に設計・選択される合理的仕組みであるという社会選択的な側面がある。そのため,規範的分析に根ざした理性的・批判的な評価を抜きにしては経済システムの分析は非理性的なものになり,存在するシステムはすべて固有の合理性を持つという保守的な考え方に陥る危険性がある。また,堅実な歴史的・実証的・比較制度論的な分析を抜きにしては,制度の理性的設計と社会的選択は自生的秩序と整合しない根無し草になる危険性がある。

COE/RESは,(1)社会的選択理論と厚生経済学,(2)規範的評価の思想と学説,(3)国際経済学,(4)国際金融論,(5)産業組織論,(6)企業経済学,(7)比較経済制度論,(8)公共経済学,という学問分野を高い水準でカバーしつつ,複眼的・相補的に構想されている。経済システムの進化と設計を体系的に研究・教育する世界水準の拠点形成は,現代の日本にまさに必要な重要課題である。

このプロジェクトには,鈴村興太郎経済研究所教授をリーダーに,経済学研究科から10名,経済研究所から6名,国際企業戦略研究科から1名の計17名が参加している。研究組織は,規範的評価と社会的選択の理論を研究する【基礎研究グループ】(2班)と,国際経済システム,企業・技術システム,財政・社会保障システムを焦点に経済システムの歴史的・実証的・比較制度論的分析を行う【応用研究グループ】(3班)からなっている。形式上,グループ・班には分かれているものの,メンバーは横断的に研究に参加して,研究が相補的・有機的に結びつくようにしている。

COE/RESは,毎年多数の国際コンファレンスや国際セミナーの他,大学院生を対象としたレクチャーシリーズや,大学院生によるセミナーシリーズを開催している。また,教育面では,多数の大学院生をリサーチ・アシスタントとしてプロジェクトの研究に直接関与させる他,大学院生を対象として研究助成や長期海外派遣を積極的に行い,博士号の取得を支援している。さらに,厚生経済学と社会選択理論に関するライブラリーや日本企業のガバナンス構造に関する長期的なデータベースなど,プロジェクト後に残すべき知的資産の構築にも力を入れている。

現時点までの研究成果としては,メンバーを中心として約200本のディスカッションペーパーが執筆され,それらはJournal of Economic Theory,Social Choice and Welfare,Journal of International Economicsなど国際的なトップジャーナルに投稿・掲載されている。

なお,一橋大学は,COE/RESが採択されたのを契機として,2004年7月に,現代の規範的経済学と社会的選択理論の発展においてもっとも顕著な貢献をなし,さらには一橋大学の経済学研究に大きな影響を及ぼしたノーベル賞受賞経済学者アマルティア・セン教授(ハーバード大学)とケネス・アロー教授(スタンフォード大学)に,その功績と栄誉をたたえ,名誉博士号を授与した。

COE/RESに関する詳細は,ホームページを参照願いたい。

(http://www.econ.hit-u.Ac.jp/~coe-res/index.htm)