I. 活動の基本方針
5. COEにおける活動
<21世紀COEプログラム「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」活動報告>
本COEプログラム(COE/RES)は,現代経済システムの規範的評価と社会的選択に関する世界的な研究・教育ネットワークの形成を目指し,経済研究所の鈴村興太郎教授をリーダーとして2003年にスタートし,5年間の活動期間を経て2008年3月に終了した。本プログラムは17名のメンバーで構成され,経済学研究科からは11名の教員 (井伊,石川,岡田(羊祐),岡室,小田切,川口,齊藤,佐藤(主光),田近,蓼沼,古沢)が参加した。他に6名の教員が経済研究所から参加した。以下ではまず本プログラムの概略を紹介し,次に活動報告を行う。
ここでいう経済システムとは,経済の制度的枠組み,所与の制度的枠組みを前提としてプレーされる経済的ゲームのルール,所与の経済的ゲームのプレーヤーが選択する戦略プランないし政策シナリオを包括する重層的な概念である。この意味の経済システムには,歴史的に生成され,競争的淘汰過程を経て徐々に根付いてきた自生的な秩序であるという進化論的な側面と,民主的に形成された規範的評価に基づいて,理性的に設計・選択される合理的仕組みであるという社会選択的な側面がある。そのため,規範的分析に根ざした理性的・批判的な評価を抜きにしては経済システムの分析は非理性的なものになり,存在するシステムはすべて固有の合理性を持つという保守的な考え方に陥る危険性がある。また,堅実な歴史的・実証的・比較制度論的な分析を抜きにしては,制度の理性的設計と社会的選択は自生的秩序と整合しない根無し草になる危険性がある。
本COEプログラムは,(1)社会的選択理論と厚生経済学,(2)規範的評価の思想と学説,(3)国際経済学,(4)国際金融論,(5)産業組織論,(6)企業経済学,(7)比較経済制度論,(8)公共経済学,という学問分野を高い水準でカバーしつつ,複眼的・相補的に構想された。研究組織は,規範的評価と社会的選択の理論を研究する【基礎研究グループ】(2班)と,国際経済システム,企業・技術システム,財政・社会保障システムを焦点に経済システムの歴史的・実証的・比較制度論的分析を行う【応用研究グループ】(3班)からなっている。形式上,グループ・班には分かれているものの,メンバーは横断的に研究に参加して,研究が相補的・有機的に結びつくように配慮した。
本COEプログラムは,毎年多数の国際コンファレンスや国際セミナーの他,大学院生を対象としたレクチャーシリーズや,大学院生によるセミナーシリーズを開催した。国際コンファレンスは合計22回,レクチャーシリーズは合計10回である。また,教育面では,多数の大学院生をリサーチ・アシスタントとして研究に直接関与させる他,大学院生を対象として研究助成や長期海外派遣を積極的に行い,博士号の取得を支援してきた。さらに,厚生経済学と社会選択理論に関するライブラリーや日本企業のガバナンス構造に関する長期的なデータベースなど,プログラム終了後に残すべき知的資産の構築にも力を入れてきた。研究成果としては,メンバーを中心として267本のディスカッションペーパーが執筆され,それらはEconometrica,Economica,Journal of Economic Theory,International Economic Review,Social Choice and Welfare,Journal of International Economics,Research Policyなどの国際的なトップジャーナルに投稿・掲載されている。著書・編著書も19冊刊行した。
本COEプログラムによって形成された強固な国際的研究・教育ネットワークを継承し,さらに発展させるため,2008年2月に現代経済システム研究センター(Center for Research on Contemporary Economic Systems)が設立された。2008年度からは,経済学研究科と経済研究所における2つの21世紀COEプログラムを引き継ぐグローバルCOEプログラム「社会科学の高度統計・実証分析拠点構築」が開始された。
本COEプログラムの教育・研究成果は,21世紀COEプログラム委員会において,最高評価である「設定された目的は十分達成された」という高い評価をうけた。
なお本COEプログラムの活動状況について,より詳しくは,以下のURLを参照されたい。
(http://www.econ.hit-u.ac.jp/~coe-res/index.htm)
<21世紀COEプログラム「社会科学の統計分析拠点構築(Hi-Stat)」活動報告>
本プログラムは経済研究所の斎藤修教授を拠点リーダーとして,2003年度からスタートした。2007年度で終了したものの,その活動内容は,2008年度より,グローバルCOEプログラム「社会科学の高度統計・実証分析拠点構築」に継承されている。本プログラムは全員で16名から構成されており,経済学研究科からは,4 名の教員 (大橋,山本,斯波,黒住)が参加した。他のメンバーは経済研究所11名,商学研究科1名である。一橋大学の統計分析拠点という意味で,Hi-Statという略称を用いていた。以下ではまず本プログラムの概略を紹介し,次に活動報告を行う。
本プログラムで遂行された研究は,以下の3つの分野にまたがる。第1は,統計データを利用する経済学,および人口学等の関連社会科学における高度実証研究分野である。ここには集計量を研究対象とするマクロ分析と,ミクロ・データを利用して人びとの行動パターンを研究するミクロ分析の双方が含まれる。第2は,それらの実証分析のための統計学・計量経済学の理論的研究である。第3に,歴史統計(人口統計・マクロ経済統計)の整備・推計と,それに関わる数量経済史研究である。実際の活動は組織全体をデータ・アーカイブと3つの研究グループ(マクロ分析,ミクロ分析,統計理論)に分けて進められた。
ミクロ班では,経済研究所附属社会科学統計情報研究センター・ミクロ分析セクションと共同で,政府ミクロ統計データの利用促進を行うと同時に,独自集計を行い,「農家経済調査」のデジタルデータベース化,「就業と生活について」のパネル調査等を実施した。共同研究のネットワーク構築の一環として,慶應義塾大学21世紀COEプログラム「市場の質に関する理論形成とパネル実証分析」,家計経済研究所等との研究協力を推進した。マクロ班では,アジア長期経済統計シリーズ第1巻『台湾編』(東洋経済新報社)を2008年12月に刊行した。また,ヴェトナム,韓国,中国の巻がとりまとめに入っていて,順次刊行予定である。さらに,経済産業研究所と協力して,JIPデータベースの改訂版(2005年までカバー)を2008年4月に公表し,データベースを利用した研究成果『生産性と日本の経済成長』 (深尾京司・宮川努編,東大出版会)を刊行した。研究トピックとしては,日・韓生産性比較,EUの通貨統合とアジアのそれとの比較等の実証研究を進めた。なお本COEプログラムで作られた種々のデータは,当プログラムのホームページ上で公開されている。統計理論班では,パネルデータの計量理論研究として,動学的なパネル・モデルにおける種々の問題を扱ってきた。官庁統計に関する研究としては,特殊なサンプリング構造(ローテーション・サンプリング)等についての問題を取り上げて研究を行った。
前回の活動報告書以降からプログラム終了(すなわち,2006年10月から2008年3月末までの1年半)の研究集会等の活動状況・成果は,以下のようにまとめられる。全体集会1回,研究会26回(この中には,国際コンフェレンス,研究セミナー,レクチャーシリーズ等の研究(教育)集会が含まれる),ディスカッションペーパー67巻(186号- 252号)。
一方,本プログラムの重要な役割に大学院教育に関する積極的関与がある。2006年度および2007度には,ポスドク相当のCOE研究員を13名と12名,RA相当のCOE学生アシスタントを8名と6名,それぞれ雇用した。彼らは多くの研究会やワークショップ,レクチャーシリーズに参加し,数多くのDPを執筆している。これらは,オン・ザ・ジョブ・トレーニングによる教育の成果といえるだろう。
本プログラムの教育・研究成果は,21世紀COEプログラム委員会において,最高評価である「設定された目的は十分達成された」という高い評価をうけた。
なお本プログラムの活動状況について,より詳しくは,以下のURLを参照されたい。
(http://hi-stat.ier.hit-u.ac.jp/)
<一橋大学グローバルCOEプログラム「社会科学の高度統計・実証分析拠点構築」活動報告>
本プログラムは経済研究所の深尾京司教授を拠点リーダーとして,2008年度からスタートした。本プログラムは全員で26名から構成されており,経済学研究科からは,14名の教員(石川,岡田(章),岡田(羊祐),岡室,奥田,川口,黒住,齊藤,佐藤(宏),佐藤(主光),塩路,斯波,蓼沼,古沢)が参加している。他のメンバーは経済研究所12名である。一橋大学の統計分析拠点という意味で,Hi-Statという略称を用いている。以下ではまず本プログラムの概略を紹介し,次に活動報告を行う。
本事業では,世界の研究者コミュニティーに開かれたデータ・アーカイブを核とし,OJTによる人材育成と,アーカイブを活用した実証研究やデータに直結した統計分析手法・経済理論の開発を行う,世界的な教育研究拠点の構築を目標とする。
本事業が継承する21世紀COEプログラム「社会科学の統計分析拠点構築」では既に全国の研究者による政府統計ミクロ・データの利用を支援する日本最初の拠点である「ミクロ・データ分析セクション」を総務省と連携して設立し,アジア諸国の過去100年にわたる統計を「アジア長期経済統計」として整備・一部公開し,日本の生産性を詳細な産業レベルで分析し,また国際比較を可能にする「日本産業生産性(JIP)データベース」を経済産業研究所と協力して作成・公開するなど,統計インフラの整備に努めてきた。本事業が継承するもう一つの21世紀COEプログラム「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」では,マクロ経済,金融,産業組織,国際経済,労働経済,公共経済,経済発展などの各分野で,日本の第一線で活躍する実証・理論経済学者達が共同研究を進めてきた。本事業にはこれらの研究者が多数参加することにより,収集・公開するデータベースや実証分析の対象分野を大幅に拡張し,実証の理論的基礎を充実させる。同時に統計理論家が結集し,データ・アーカイブと直結した分析手法の開発と教育を行い,マクロ経済時系列データに関する新しい分析方法の開発,ミクロ経済データを対象としたパネル・モデルに関する新しい分析方法の開発等を進める。さらに,新たに国内外の資産価格の高頻度データを整備するとともに,こうしたデータの解析に必要な計量ファイナンスの手法についても研究する。
本拠点の充実したデータを利用する為,既にイェール大学,スタンフォード大学,ロンドン大学等の研究者や大学院生が本拠点に滞在し,研究を進めてきた。本事業では,国際的に開かれた教育研究拠点として,国内外から公募で他大学の大学院生や若手研究者を「COE研究生」として数ヶ月間受け入れ,経済的な支援や施設提供を行っている。また公募でポスドクレベルの国内外研究者を「COE研究員」として雇用する。更に,現在公募で実施中の政府ミクロ統計利用支援や公募研究を拡充し,経済研究所をはじめとする一橋大学のファシリティーも活用することにより,海外や国内他機関の大学院生や研究者が多数,常時研究に参加する拠点となることを目指している。また既に連携しているフローニンゲン大学やロンドン大学と協力し,経済発展や生産性に関する全世界のデータをウェブ上で公開する国際ネットワークを構築する。
人材育成の面では,博士課程学生を厳選して「COEフェロー」およびRA・TAとして採用し,共同研究に参加させ,経済的支援を与えたうえで,体系的なコースワークを創設し履修を義務付け,それとあわせて第一線の海外研究者によるレクチャーシリーズを頻繁に実施している。さらに,国際会議での報告や在外研究の機会を学生に提供している。さらに一定の条件のもとで英文校正のサービスを提供したり,ポスター発表用プリンタの使用を許可したりするなど,大学院生の発表活動がスムーズに行えるような大学院生の視点に立ったサポートを充実させている。2009年1月現在でCOEフェロー14名,COE研究生7名,RA11名,TA1名を雇用している。彼らは多くの研究会やワークショップ,レクチャーシリーズに参加をし,すでにDPをいくつか執筆している。今後,オン・ザ・ジョブ・トレーニングによる教育の成果が結実することを期待したい。
なお本プログラムの活動状況について,より詳しくは,以下のURLを参照されたい。