経済学研究科・学部の紹介

経済学研究科

経済学研究科は,経済学の多様な専攻分野における研究者の育成,ならびに高度の専門性を要する職業に必要な能力の養成を目的とし,研究者養成コースと修士専修コースの2つのコースを設置している。研究者養成コースは,将来大学や研究機関などで研究・教育に従事することを希望する人々のためのコースであり,修士課程を修了し一定の進学要件を満たせば博士後期課程に進学することができる。なお,進学要件として進学資格試験が課せられる。修士専修コースは修士課程のみで,学部卒業生,あるいは社会人で高度の専門知識・能力の習得を目的とする人々を対象としている。この観点から,修士専修コースには3つの専門職業人養成プログラム(公共政策,統計・ファイナンス,地域研究)が設けられている。

カリキュラムは,基礎的な段階から高度な内容に至るまで,段階的に専門知識および分析能力が習得できるように体系化されており,400番台科目,500番台科目,600番台科目に分けられている。2つのコースともに,修士課程において,ミクロ経済学・マクロ経済学・計量経済学・政治経済学・比較経済史の各分野について,400番台のコア科目が選択必修科目として設置されている。修士論文,博士論文の研究指導は,各教員のゼミナールならびに各専攻分野における複数の教員の構成するワークショツプにおいて行われる。博士後期課程の学生ができるだけ早く博士の学位を取得できるように,博士論文指導委員会を設立するなど,制度の整備を進めている。

専攻は,経済理論・経済統計,応用経済,経済史・地域経済,比較経済・地域開発の4つからなる。経済理論・経済統計専攻には,ミクロ経済学・マクロ経済学・政治経済学・経済システム論・経済学史などの経済理論,統計学・計量経済学・確率論・情報処理論などの経済統計,および数理構造・数理解析などの数理研究が含まれる。応用経済専攻は,国際経済学・労働経済学・産業経済学・公共経済学・環境経済学・技術経済論・現代経済論・経済立地論などの応用経済の諸分野からなる。経済史・地域経済専攻には,日本経済史・西洋経済史・東洋経済史・文明史などの歴史研究と,日本および東・南・西アジアの地域経済に関する研究が含まれる。比較経済・地域開発専攻には,開発経済論・開発金融論・国際通貨論・統計調査論・比較経済システム論・比較経済思想・地域経済各論など,地域経済開発や経済の地域間比較に関わる諸研究が配置されている。

大学院教育は,本学経済研究所の教員とともに構成される経済学研究科委員会が運営しており,幅広い専攻分野に充実したスタッフを擁している。また,国際交流協定に基づき,海外から研究者が招聘されるとともに,大学同窓会(如水会)の後援による留学生派遣が毎年行われている。国内では,東京大学大学院経済学研究科,東京工業大学大学院情報理工学研究科・社会理工学研究科と単位互換制度を実施している。


経済学部

経済学部は,1949年に東京商科大学が一橋大学に改称されたのを機に,商学部および法学社会学部と共に独立した学部として設立された。その4年後には,大学院経済学研究科を備えるに至った。

「経済」という言葉は「国を治め民を救済すること」を意味する「経世済民」の略語である。すなわち,国を治め民を救済する方法を探究するのが経済学といえる。人々の暮らし向きをさらに向上させるためには,どのような社会経済システムを構築すべきか。また,どのような政策を採るべきか。このように大局的視点から,複雑に絡み合う個々の経済現象を分析し,その深層に迫ろうとする学問なのである。経済学を理解するには,論理的思考能力が必要とされる。それ故,経済学を学習すればするほど自然に論理的思考能力が身についてくる。本学部は,大局的視点から物事を見て論理的に思考できる人材を育てることで,社会に貢献しようとしている。

経済学は理論的体系性が強い学問で,その習得には,入門,基礎レベルから中級・上級レベルヘの段階的学習が必要である。よって,本学部の学部教育科目にはレベルに応じて100番台から400番台までの番号が振られており,全体として入門から中級へ,そしてさらに進んだ専門へという積み上げが明確にされた科目編成になっている。100番台は入門科目,200番台は基礎科目,300番台・400番台は専門的な発展科目である。400番台は大学院との相互乗り入れ科目で,意欲のある学生は大学院の科目も履修できる。そのような自由がきくことも,本学部の特徴である。

「経済学入門」,「経済思想入門」,「統計学入門」,「経済史入門」の100番台科目は必修科目であり,それらを履修し経済学に少し慣れてきた頃に,200番台,300番台へと履修を進めていく。200番台では,「基礎ミクロ経済学」,「基礎マクロ経済学」,「基礎計量経済学」,「基礎経済数学」のうち,任意の2科目が選択必修である。200番台以降の科目は,大きく2つに分けることができる。1つは,社会科学の中で最も自然科学に近い経済学としての立場から,経済現象を理論的・数量的に分析するアプローチであり,数学が頻繁に援用される。その例としては,最適な資源配分メカニズムの設計・財政金融政策が日本経済に及ぼす効果,ファイナンス理論による為替レートや株価変動の分析などが挙げられる。もう1つは,歴史的および地域的発展の経過に重点を置いたアプローチであり,例えば,経済発展,アジアと日本の経済協力,地球環境や資源といった問題が,歴史的認識をふまえて解明される。学生は,このような2つの流れの中から,自分の興味があるコースを選択できるようになっている。

講義科目以外の特徴としては,数名から10数名程度の少人数からなるゼミナール教育がある。経済学部は3・4年生のゼミと卒業論文を必修とし,意欲ある1・2年生には選択制の基礎ゼミも開講している。ゼミは,学問を通じて自分自身を高める場であるとともに,教員と学生間ならびに学生同士の交流による人格形成の場でもある。ゼミでの出会いが生涯の交友の始まりとなるなど,人生にとって大きなエポックとなることも多い。

本学部卒業生に対する社会的評価は,幾多の先輩の長年にわたる努力と実績を反映して極めて高い。卒業生は,銀行・保険・証券など金融機関に就職する者の比率が高く全体の3割に近い。これに続くのが,鉄鋼・金属・化学工業,機械,電気,自動車,建設,食品などのメーカーや運輸,倉庫,不動産などサービス業であるが,商社に就職する者も伝統的に多い。また近年の傾向として,通信・情報サービス,官庁関係,コンサルティングの分野へ進む者も多くなっている。

他方,より専門的な知識を必要とする職種(金融機関,官公庁,民間の研究機関やシンクタンク,国連などの国際機関など)を目指す者は,社会へ出る前に修士課程に進学するケースが増えてきている。本学部では「学部・大学院5年一貫教育システム」により,大学入学後5年で学士号と修士号の学位が取得可能で,学部から大学院への推薦制度も導入して修士課程進学を積極的にサポートしている。本システムでは,専門職業人養成プログラムと一般プログラムが提供されており,専門職業人養成プログラムは,(1)公共政策,(2)統計・ファイナンス,(3)地域研究の3つから構成されている。なお,この専門職業人養成プログラムへは,「学部・大学院5年一貫教育システム」以外の修士専修コース入学者も参加できる。

2005年度からは,法学研究科と共同で新たに「国際・公共政策大学院」を設置し,ビジネススクールや法科大学院と並んで専門職大学院教育を行っている。学部レベルを超えた経済学を必要とするような専門性の高い仕事への道は,今後ますます開かれていくであろう。

21世紀の日本にとって有為な人材には,たとえ常識とされていることでも自ら吟味しとらえ直し,自己の考えを主体的に構築する創造的な能力が求められる。本学部で採用している積み上げ方式のカリキュラムに従って経済学を体系的に学び,是非ともそういった力を身につけて,社会で活躍して欲しい。