は し が き

経済学研究科長
江夏由樹

経済学研究科『教育研究活動状況報告書』は1993年に第1号が作成されて以来,2年ごとに刊行されており,本号は第9号となる。本報告書の刊行目的は,研究科全体,また,各教員の教育研究,また,社会活動の近況をまとめ,その内容を自己点検することにある。本報告書をまとめることは,この2年間をふりかえり,研究科の教育研究活動のさらなる発展を図るための重要な機会となっている。

本研究科の2007年4月以降における教育研究活動の特長の一つは,各種の大型教育研究プロジェクトの推進に一層邁進してきたことであろう。21世紀COEプログラム「現代経済システムの規範的評価と社会的選択」は2008年3月に終了し,その後継組織として研究科内に現代経済システム研究センターを創設することができた。また,2008年4月からは,経済研究所と連携し,グローバルCOE「社会科学の高度統計・実証分析拠点構築」が活動を開始している。さらに,2007年9月には,文部科学省の大学院教育改革支援プログラムとして「文系修士課程における金融工学教育プログラム」が始まり,本研究科内に設立された金融工学教育センターがその教育研究の任務を担っている。また,文部科学省の「近未来の課題解決を目指した実証的社会科学研究推進事業」として「高質の住宅ストックを生み出し支える社会システムの設計」,同じく,「世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業」として「アジアのなかの中東」,概算要求事項「統計・計量分析の新たなプログラム開発と高度実証教育」などの大型プロジェクトが,それぞれの領域において,最先端の研究と教育活動を展開してきている。

本研究科が様々なプロジェクトにより,経済学の各分野における最先端の研究を担っていくなかで,如何にして,いわゆる「リサーチ・ユニバーシティ」のみに可能な高度な学部・大学院の教育を推進していくかという点が,今後も重要な課題となってくる。例えば,研究と教育との有機的な連関を意識しつつ,本研究科は,すでに2004年度から,「学部・大学院5年一貫教育システム」「修士専修コースの専門職業人養成プログラム」を創設し,学部と大学院とを一体化した教育体系の確立を図ってきた。また,そのなかで,「外部資金」を導入することにより,そうした学部・大学院教育の水準を一層向上させることに力を注いできた。「専門職業人養成プログラム」の一つである「統計・ファイナンスプログラム」が,現在,上記の「文系修士課程における金融工学教育プログラム」と表裏一体の関係で運営されていることなどは,その典型であろう。ここで問題となる点は,実施期間の限られている各種大型プロジェクトに依拠しつつ,如何にして,そこに,中長期的な見通しをもった教育研究体制を構築していくかということである。運営費交付金の削減が進むなかで,機会あるごとに,様々な外部資金を獲得することに一層努めることは当然としても,そのなかで,優れた教育研究体制を恒常的に維持していくためには,今後も様々な工夫が必要となってくるであろう。