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成果/コンファレンス

理論モデルの構築とそれに基づく分析

  • 従来の環境政策に関わる経済理論は,地球環境問題を論じる際に必要な経済的分析手法が整備されていなかったため、そうした必要性に答えるだけの理論的手法を整備した。
  • 最近のグローバル化の進展に伴い、特に国際的なアウトソーシングが顕著となってきている。あまり理論モデル化が進展していないアウトソーシングに焦点を当てたモデルを構築し、分析した。
  • 理論的に導かれた正しい政策を発動するために、政策当局がどのような情報を必要とするかについて、モデルを構築し、必要とされる情報量についていくつかの政策の間で比較した。
  • 地域貿易協定に関して、「原産地規則」と「ローカル・コンテント規制」についての先行研究を展望し、それらでは無視されていた問題を明らかにした上で、理論モデルを構築して分析を行った。
  • 有効保護の理論について、有効保護率が名目保護率を上回るための一般的必要十分条件を求めた上で、国際寡占産業における有効保護率と名目保護率の関係を理論的に分析した。
  • 世界貿易機関(WTO)を中心とする国際的通商政策規律の形成について研究を開始した。とくに、会計サービスを例にとり、国際的政策規律と国内政策の関係について、詳細な分析を行った。また、セーフガード措置についても、国際政策規律に関する1分野として分析を行った。

日本企業の対外直接投資を含む企業ベースのマイクロ・データ、パネル・データの整備


  • 国際貿易について、1980年から2000年までの期間につき5年ごとに、産業連関表基本行分類レベル(302部門)という詳細な産業別に、相手国別の輸出・入統計を作成した。
  • 総務庁(現総務省)の1996年を対象にした『事業所・企業統計調査』個票データ、東洋経済新報社『海外進出企業総覧』、経済産業省の『企業活動基本調査』を用いて、対内・対外直接投資、サービス貿易についてのパネルデータを作成した。
  • 産業別データベース(Japan Industry Productivity Database(JIP)データベース)を作成した。内閣府経済社会総合研究所のプロジェクト『日本の潜在成長力の研究』(主査 深尾京司)と連携しながら、SNA産業連関表84部門ベースという詳細な産業レベルで、1970−1998年について要素投入、生産額、年次産業連関表、R&Dストック、貿易、直接投資等に関するデータベースを作成した。それらのデータは、全てエクセルファイルの形で内閣府経済社会総合研究所からダウンロード可能にした。

整備したデータに基づく分析

  • どのような属性の業種で対内直接投資が活発か、米国と比較して、日本の対内直接投資はどのような特徴があるか、といった問題を分析した。
  • パネルデータセットを用いて、日本企業の国際化と企業組織・企業間関係に関する分析を進めた。
  • 産業別TFP上昇率の決定要因、アジア諸国からの単純労働集約的な財輸入の急増が国内労働市場に与えた影響に関する研究を行った。また日本の対外貿易や東アジア諸国間の貿易について、HS9桁やSITC6桁という詳細な商品分類レベルで貿易統計を収集・整理し、垂直的な分業を伴う産業内貿易について研究した。
  • JIPデータベースに基づいた分析を開始した。

最初の2年間は、それに続く4年間の研究をにらんで、世界経済が直面している諸問題の整理と検討、及び、日本の対内・対外直接投資データの整備が主な目的であった。

前者については、当初の予定どおり、インターネットを通じての情報収集や実際のインタビューなどを通じて順調に進んだといえる。特に、WTOとOECDなどを訪問してのインタビューは、深い議論ができたという点、細かな点を確認できたという点において非常に有意義であった。その後の理論モデルの構築と分析に大いに役に立っている。

さらに、収集した情報をもとに、WTOが直面している問題として、遺伝子組み換え体の貿易、電子商取引、環境ラベルの規格に関する国際ルールの作成を検討した。これらのルールはまだきちっと確立されていないが、作成にあたっては、WTOがOECD、WIPO、ISOなどの他の関連国際機関とが緊張関係に立ちうることが明らかになった。

後者についても、特に充実した3桁業種別データを構築させることができ、その後の研究に大いに活用している。この新しいデータベースは1)直接投資の規模を、国境を越えた投資フローではなく外資系企業の売上や従業者数のようなより適切な指標で測っていること、2)これまで特にデータが不足していた非製造業分野もカバーしたこと、等の点で画期的な長所をもっている。

非製造業については、サービス貿易の業種別データも独自に整備した。また米国の対内、対外直接データも産業分類の組換え等により、日本と比較できる形で整備した。対外直接投資についてはアジア向けと欧米向けの性格の違いを考慮して、地域別のデータも作成した。パネルデータ整備に関しては、当初の予定より遅れていたが、3年目に整備が進んだ。これまでの単年のマイクロデータを用いた分析より一歩進んだ動態的な実証分析が可能となったといえよう。

3年目以降、本格的な理論モデルの構築とその分析、整備ができたデータを用いた分析に入った。

理論モデルに関しては、まず地球環境問題に関連して地球温暖化を国際的な枠組みで考察するためのモデルを構築し、排出税,排出権取引,排出総量規制,そして排出基準規制の経済効果がどのように異なるかについて,小国開放経済のみならず大国の場合についても分析を行った。

たとえば,排出税が他の政策とは著しく異なった効果,とくに貿易・産業構造を不安化させる可能性などを指摘した。また、グローバル化の進展にともなう中間財貿易の変化(アウトソーシングの活発化など)を分析するためのモデルを構築し、このモデルから、アウトソーシングは価格低下を必ずしももたらさないという従来の分析とは異なる結論が得られた。

また、経済統合の進展をいろいろな角度から分析するモデルの構築と分析も開始している。さらに、4年目には、制度設計という視点から、世界貿易機関(WTO)を中心とする国際的通商政策規律の形成についての研究、及び政策策定における政策当局の情報の問題についての研究も開始した。とくに、この規律の形成については、経済学からのアプローチはまだほとんどなされておらず、今後の研究の方向付けを与えるものとして意味のある成果をあげつつあると考える。

また、データベースの構築及びそれを用いた実証分析(産業別データベース(JIPデータベース)の構築、垂直的な産業内貿易と直接投資に関する研究、国際貿易の変化が国内労働市場に与える影響に関する研究)も着実に成果をあげている。整備した統計データから、直接投資による海外進出は、その企業がどのようなアクティヴィティを企業内に内部化するか、事業所・子会社を含めどのような企業組織を構築するか、また周りの企業とどのような企業間関係を結ぶか、といった活動全般に関する企業の意志決定と不可分の関係にあることが明らかになった。

そのように理解することによって初めて、本国の親会社と海外子会社の産業・業種がしばしば食い違うのはなぜなのか、企業は生産拠点の分散と集中をどのように使い分けているのか、企業組織や企業間関係における日本企業の特質はどこにあるのか、といった問題について、一定の知見を得ることができる。

すでに、マクロ経済と国際経済に関するデータベースの作成については当初の目標を十分に達成したといえる。データは全て公開したため、これを利用したいとの問い合わせや、部外者による利用実績も海外研究者を含めて十件以上に達している。海外の研究者の依頼に応じるため、データベースの英語版も作成した。フローニンゲン大学のvan Ark教授、ソウル国立大学の表教授から、我々の研究を彼らのEU加盟各国、韓国、中国に関する研究と連携させることにより国際比較を行おうとの打診を受けている。

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