2013年度 (平成25年度)

1、国際金融市場に関わるリスク
貿易構造や資本移動と金融システムとの関係に関する理論的成果を論文にまとめ、それらの結果がどれだけ現実の経験や実証結果と整合的か、また理論モデルをどの程度現実的なものに変更する必要があるかについて検討を行った。

2、グローバルな環境問題
(1)国際輸送から汚染が発生するような2国寡占競争モデルを構築し、貿易自由化や環境政策が資源配分や経済厚生に及ぼす影響を理論的に分析した。汚染による損失が大きい場合、もし環境政策が行われていなければ両国の関税引き下げは両国の経済厚生を引き下げる可能性があること、貿易の自由化が十分に進展していれば協調的な環境政策の導入が両国の経済厚生を引き上げることなどを明らかにした。
(2)環境政策の及ぼす国際貿易や企業立地への影響、技術トランスファーと国際貿易との関係を分析した。特に、寡占における貿易理論や新経済地理学理論をベースに実際の政策を考慮し、また実証研究とのつながりに配慮しつつ理論モデルを構築した。

3、国際的な生産ネットワークの構築・運用に伴うリスク
(1)世界金融危機が国際的生産ネットワークに与えた影響、国際的生産ネッ トワークの安定性・頑健性について、貿易データをさらに精緻に用いて、安定性・頑健性を確認した。特に、ショック以前にどのくら い取引が継続していたかが取引継続確率に強く効いてくることがわかった。機械産業における国際的生産ネットワークがどの程度の地 理的広がりを見せているのかについて、特に東アジアと中東欧との間の機械部品・中間財貿易に焦点を当てつつ分析した。
(2)グロー バルな経済リスクの高まりや新興国の急速な経済成長に伴う日本の産業構造の変化を分析し、1980年から2005年までの間、日本は一貫 して熟練労働集約的な財を純輸出していることを明らかにした。

2012年度 (平成24年度)

1、国際金融市場に関わるリスク
(1)途上国にとって、資本市場を海外に開放すべきかどうかは重要かつ難しい問題である。先行研究では、財市場の開放度との相関関係を考慮した分析は少ない。「金融市場が不完全なもとでの国際貿易と国際資本移動」の研究を通じて、財市場の開放は発展途上国から先進国への資本流出を招くことを理論的に示した。この結果は、発展途上国が資本市場と財市場をともに開放する場合、まず国内金融制度の改革が必要なことを示唆する。
(2)途上国の企業が先進国のブランドを買収する事例から、海外買収をブランド作りの一戦略と考えて研究を行った。不完全情報の下でリスク面を考慮すると、質のよくない企業の存在によって、ブランドの買収がブランド作りにあまり貢献しないことが分かった。

2、グローバルな環境問題
(1)2段階ゲームを用いて、地球温暖化対策として炭素リーケージがあるもとでの排出税と排出割当の比較分析を行った。この分析により、どちらの政策がより厳しいのか、なぜ先進国は排出割当を主に採用するのに対し、途上国は排出税を主に採用するのか、といった問に対する示唆を得た。
(2)援助が2国間で非協力に決定される環境政策にどのような影響を与えるかを理論的に分析した。生産から生じる汚染が国内に留まる場合と外国にも影響が及ぶ場合とで、両国の厚生に及ぼす影響に大きな違いがあることが分かった。

3、国際的な生産ネットワークの構築・運用に伴うリスク
東日本大震災が国際的生産ネットワークにどのような影響を与えたかを見るために、機械産業を中心とする国際的生産ネットワークが震災に対しどのように反応したかについて、実証研究を行った。国際的生産ネットワークの下での国際取引は、それ以外の国際取引と比較して、より高い安定性・頑健性を示すことが確認された。このことは、新たな国際分業の1つの重要な性格を明らかにするものであり、21世紀型地域主義の内容にも密接に関連するものであった。
マクロレベルのデータベースをもとに、輸出と雇用の関係を分析し、輸出の減少が雇用に及ぼす影響は、その産業の輸出と生産・雇用の関係を見るだけでは必ずしも十分ではないことがわかった。この結果は,外需のショックという潜在的なリスクに備えるためには、その産業の輸出の効果だけでなく、リンケージを通じて波及する効果も考慮する必要があることを示唆する。

2011年度 (平成23年度)

1、国際金融市場に関わるリスク
金融市場の発展度が異なれば、企業の技術導入の度合いも異なり、それにより産業内における生産性分布も異なってくる。財・サービス貿易の自由化と国際資本移動が同時に自由化されるグローバリゼーションにより、生産性分布は国際間で均一化し、その結果世界的平均生産性は低下する可能性があることを、理論的に明らかにした。

2、グローバルな環境問題
地球温暖化対策として、環境政策にリンクしたODAの効果を分析した。国際援助額を受入国の排出量に依存させた場合、受入国の排出総量を減少させ、供与国の経済厚生も引き上げうる。また、国内及び国際的な排出権取引を理論的に分析した。国内排出権取引は、国際的な炭素リーケージをもたらしうる。国際排出権取引は、経済の効率性を高めるものの、厚生を高めるとは限らない。以上の結果は、政策のスキームを考える上で重要な示唆を与える。

3、国際的な生産ネットワークの構築・運用に伴うリスク
(1)日本の製造業企業の個票データを用いて世界金融危機のショックが企業の国際分業・国内雇用等にどのような影響を与えたかの分析を継続中である。
(2)国際金融危機のようなリスクが国際貿易を通じて国内生産・雇用にどのような影響を及ぼすかについては、産業界でも政策担当者の間でも大きな関心事である。すでに整備したデータをもとに、特に「輸出に関わるリスク」について研究を開始した。

  
2010年度 (平成22年度)

1、国際金融市場に関わるリスク
(ミクロ的側面)
金融市場の不完全性が国際貿易・投資に与える影響を理論的に考察した。金融市場が不完全な状態で、資本市場を開放すると、各国の産業構造は劇的に変化することがわかった。資本市場の開放により資本は南から北へ流れるが、その量が多い場合は、南がそれによって資本不足に陥るだけでなく、北において生産性の低い企業も生まれ、平均生産性が低下することが理論的に示された。
(マクロ的側面)
1975年から2006年までの過去30年間について、雇用、貿易、産業連関表のデータベースを作成した。また、これと並行して企業レベルのデータを整備し、景気循環と生産性の関係について分析を行った。

2、グローバルな環境問題
2国モデルを用いて、生産活動から発生する汚染の除去に貢献する財(環境財)の購入に対する補助金や排出税が資源配分や経済厚生にどのような影響を与えるかを分析し、これらの2つの政策は環境財を生産する産業の比較優位に、逆の影響を与えることが示された。また、排出税が汚染量や経済厚生に与える影響は、財の特化パターンに依存することも示された。さらに、他にも理論モデルを構築することで、排出規制や環境財への補助金が反って環境を悪化させる可能性を指摘した。

3、国際的な生産ネットワークの構築・運用に伴うリスク
平時あるいは(アジア通貨危機や世界金融危機などの)有事にかかわらず、国際的生産ネットワークの下での国際取引は、それ以外の国際取引と比較して、より高い安定性・頑健性を示すことがわかってきた。また、東アジアの経済統合への努力は、このような新しい国際分業体制に対応した21世紀型地域主義を志向していることも明確になってきた。