研究経過
2018年度(平成30年度) (課題1)国際金融市場に関わるリスク: 国際金融市場に関わるリスク:バブルと経済成長の関係がグローバル化によってどのような影響を受けるかの分析を進め、バブルの際の資金移動、バブルの国際的な連鎖崩壊の可能性などを理論的に解明した。国際貿易が国内所得分配に与える影響を理論的に分析し、国際貿易は高・低所得層の実質賃金を上昇させるが、中所得層の実質賃金を減少させうることを示した。 (課題2)グローバルな環境問題: グローバルな環境問題:外国からの政府開発援助による経済開発から環境の悪化がもたらされるような状況を想定し、政府開発援助が受入国の資源配分や経済厚生に及ぼす影響を分析した。とくに援助受入国が援助によって経済厚生を低下させる状況を示した。環境政策を包括的に入れた国際貿易及び空間経済の理論モデルを構築し、スウェーデンの企業データを用いてモデルから得られた仮説を検証した。輸出企業ほど汚染集約度が低いことなどを示した。 (課題3)国際的な生産ネットワークに伴うリスク: 国際的な生産ネットワークに伴うリスク:輸出とFDIとを比較すると、FDIの方が現地企業に近い分、現地企業による生産技術模倣のリスクが高いと予想される。しかし、現地企業にとって模倣のための投資が必要だとこの予想が必ずしも正しくないことを示した。日本の企業レベルのデータを用いて、企業活動のグローバル化と雇用のボラティリティの関係を分析し、輸出のみを行っている企業は貿易を行っていない企業と比べて雇用のボラティリティが低いことを示した。 (課題4)大規模災害リスク: 大規模災害リスク:阪神大震災や関東大震災が企業の生産性、存続・退出、企業の機械の更新や性能の向上に及ぼした影響を企業・工場レベルのミクロデータを用いて計量分析し、災害によるクレンジング効果や創造的破壊仮説を確認した。災害の経済学における創造的破壊仮説を関東大震災時の横浜市の企業レベルデータを用いて検証した。災害によって大きな被災を受けるほど機械の買い替えが進んだことが分かった。 |
2017年度(平成29年度) (課題1)国際金融市場に関わるリスク: 資産バブルの崩壊が経済全体に与える影響を主に検討してきたが、それが貿易や資金移動等を通じてグローバル経済にどのような影響を与えるかを理論的に整理・分析した。知的財産に関して、特許に関するルールがグローバル経済にどのように影響を与えどのようなリスク要因として働くかを分析した。 (課題2)グローバルな環境問題: 国際・国内輸送の数量と距離に応じて環境汚染が発生するような経済モデルを構築し、関税や国内の排出税が資源配分と経済厚生に及ぼす影響を分析して、国内生産された財の国内輸送の距離と輸入に伴う国内輸送の距離の長短が最適な税率に影響を及ぼすことを示した。独占的競争の貿易理論と環境政策を融合させた理論研究で、貿易自由化で汚染排出量、両国の環境税がどのように変化するのかを分析した。特に市場の大きさ・自国市場効果が重要であることが分かった。 (課題3)国際的な生産ネットワークに伴うリスク: 国際生産ネットワーク拡大によるマクロ経済リスクの変化を、国際産業連関表と多国間リカードモデルにより構造推定する手法を開発した。暴力抗争による輸送リスクの増加が輸出を阻害する効果を推定するため、米墨間貿易取引と道路網のデータを整備し、構造推定手法を開発した。JIPデータベースの全面改定を進めた。日本の国際課税制度が多国籍企業の海外現地法人の企業活動に与えた影響を分析し、日本企業の海外流出や租税回避の活発化は確認できないことを明らかにした。 (課題4)大規模災害リスク: リスクに対する脆弱性が問題となる開発途上国の零細企業に着目し、ラオスで平成28年に行った労働者紹介実験の再調査を行った。そ の結果、法整備の未発達な開発途上国では雇用者と労働者との間の信頼関係が生産活動にとって重要なため、親族以外の人物を雇用するリスクが高く、そのこと が企業拡大を抑制しうるという知見が得られた。 |
2016年度(平成28年度) (課題1)国際金融市場に関わるリスク: 通貨リスクと国際貿易の関係を理論・実証の両面から分析し、通貨のボラティリティが通貨統合で域内の貿易の品質に変化をもたらしたことを発見した。為替レートの変化が企業の特恵関税スキームの利用に与える影響に関して理論的・実証的に分析し、輸出国通貨の輸入国通貨に対する減価(増価)は自由貿易協定の利用率を上昇(低下)させることを明らかにした。決済通貨の選択が企業の国際取引に与える影響に関して理論的、実証的に分析を開始した。 (課題2)グローバルな環境問題: グローバルな環境問題が生じているような開放経済において貿易政策や環境政策がどのような資源配分効果や厚生効果を持つかについて、失業を明示的に考慮したハリス=トダロモデルを用いて分析した。健康を損なうリスクのある食品問題について、企業がそのような食品を生産する誘因やそのような食品が貿易される理由について理論的に分析した。 (課題3)国際的な生産ネットワークに伴うリスク: 企業活動のグローバル化により雇用が不安定化するという指摘の検証を進めた。輸入時の通関の遅れが輸出に与える影響に関して理論的・実証的に分析し、輸入時における港湾や税関での遅延が、企業の輸出頻度を低下させていることを示した。また、輸入関税の低下が、当該国の輸出時における輸送費を低下させて輸出額を増加させることを理論的に示し、実証分析による確認に取りかかった。 (課題4)大規模災害リスク: フィリピンの米市場において、自然災害などのリスクやショックが価格に与える影響を分析し、輸送インフラの質が重要な役割を果たすことを発見した。さらに、法整備の未発達な途上国においては雇用者と労働者との間の信頼関係が生産活動にとって重要な役割を果たすため、親族以外の人物を雇用することのリスクが高く、そのことが企業拡大を抑制している可能性があるという新たな知見を得た。 |
2015年度(平成27年度) (課題1)国際金融市場に関わるリスク: バブルが崩壊して救済政策を必要とする場合、それらが投資や経済厚生に及ぼす影響を詳細に分析した。直接投資研究で情報の非対称性など現実的な状況を加味すると、過剰な直接投資獲得競争が行われる可能性を示した。韓国ウォン安は競争力強化に繋がらないとの通説に対し、ウォン安が韓国製造業の競争力向上に寄与したことを発見した。97−98年の韓国の通貨危機・金融危機、97−98年の日本の金融危機が生み出した厚生水準低下のコストなどの諸研究を取り纏めた。 (課題2)グローバルな環境問題: 国際輸送と国内輸送の両方からそれらの輸送距離に比例して汚染が発生するような開放経済モデルを構築し、最適な貿易政策や環境政策について理論的に分析した。地球温暖化対策として、企業への排出税と排出割当を新経済地理学のモデルを用いて比較し、炭素リーケージに繋がる企業の汚染回避行動について理論的に分析した。 (課題3)国際的な生産ネットワークに伴うリスク: グローバル・ヴァリュー・チェーンへの参加の度合いによって、ティア構造に整理し、各ティアにおけるリスク要因、それを克服するための政策パッケージについて検討した。紛争や暴力などの安全リスクが国際生産ネットワーク形成へ与える影響を分析するため、米墨間貿易取引データとメキシコ麻薬抗争の被害データを収集した。 (課題4)大規模災害リスク: タイの洪水が在タイ日系企業の調達行動に与えた影響を分析し、タイに進出間もない被災企業と古くから進出している被災企業の調達パターンの相違を発見した。個人レベルのデータを用いて、東日本大震災前後の幸福度の変化、及び、補償額の大きさを定量的に分析した。アフリカにおいて零細農家が利用可能なマイクロクレジットを充実させることが天候や市場リスクによる食糧自給問題の解決策である緑の革命の実現において有効であることを明らかにした。 |
2014年度(平成26年度) (課題1)国際金融市場に関わるリスク: グローバル金融市場の影響について、主に金融市場の発展とグローバル化が所得分配に与える影響について研究を行った。その結果、グローバル化が所得分配に与える影響及び、その際のリスクについて一定の知見を得ることができた。また、国際金融市場のリスクが企業の特恵関税スキームの利用に与える影響に関して分析を行った。 (課題2)グローバルな環境問題: 貿易に伴う国際輸送と国内輸送から汚染が発生するような2国からなる開放経済モデルを構築した上で、輸入国における貿易政策あるいは環境政策が資源配分や経済厚生に与える影響を分析し、最適な政策について考察した。とくに、貿易政策や環境政策が通常の効果と異なる可能性があることを確認した。また、汚染規制によるリスク回避で汚染集約的なアウトソーシングがされていることを実証研究にて明らかにした。 (課題3)国際的な生産ネットワークに伴うリスク: 企業の海外直接投資に伴い雇用が失われるリスクがあるという指摘の妥当性を実証的に検証し、海外の労働と日本国内の労働との代替関係は、極めて小さいことを確認した。また、地理的な距離が1つのリスク要因として働きうることを念頭に置きながら、電気機械と輸送機械の生産ネットワークが東アジアと北米の間でいかに展開されてきたのかを検証した。さらに、対外リスクの企業間取引関係への影響を分析するため、墨米間繊維貿易データを整備し、中国輸出台頭の米墨間企業取引関係への影響を分析した。 (課題4)大規模災害リスク: 自然災害・人的災害が人々の生活に与える影響、様々な市場・非市場メカニズムの保険機能について分析するため、分析の基礎となる自然災害・人的災害のクロスカントリーデータの収集・整理を行った。また、阪神大震災後の企業の撤退リスクをサバイバル分析にて計測し、建物被害やインフラ被害がリスクを高めることを明らかにした。 |