1980年代から始まった情報通信技術( ICT: Information, Communication, and Technology)革命の進展は、生産プロセスの細分化(いわゆる「フラグメンテーション」)とその国際的分散(いわゆる「オフショアリング」)を可能にし、世界経済は急速にグローバル化していった。すなわち、ICT の世界的普及によって、グローバルバリューチェーン(GVC)の構築が進んだ。それに加えて最近では、データ解析技術の進展や人工知能(AI: Artificial Intelligence)やロボットの開発などにより、データ蓄積を巡る国際競争、生産プロセスのデジタル化、生産・開発拠点のより一層のグローバル化が進みつつあり、世界経済の環境は大きく変化してきている。
総務省が出している『情報通信白書』によると、日本企業の約4 割が国外にデータ提供している。また、Bughin & Lund (2017)によれば、2005年から10年の間に国際間のデータ移動は45 倍になった。ヒト、モノ、サービスの越境移動も増加してはいるが、その速度ははるかに及ばない。この背景には、データ送受信コストの低減だけでなく、デジ タル化して収集したビッグ・データが生産活動への投入要素として重要となったことがあると考えられる。つまり、ビッグ・データをモノのインターネット(IoT: Internet of Things)、AI、ロボットなどで活用し、生産プロセスをデジタル化することで生産性の改善を目指す動き、いわゆる第4次産業革命が幕を開けたと言える。このことは、ビッグ・ データの移動・活用といった経済活動のデジタル化が国際経済取引や国際分業の形態に大きな影響を及ぼしつつあることを示唆している。世界経済のグローバル化の進展、そして世界経済の成長において、今やビッグ・データのグローバルな移動とその活用がカギを握ると言っても過言ではない。
ところで、GVCの進展によって中国などの新興国に製造業の生産拠点がシフトした結果、貿易構造は変化し、新興国の所得水準は向上した。さらに、フィンテックと呼ばれるような技術革新を利用した新しい金融サービスが新興国で大きく発達するなど、単なる生産拠点の移転以上の動きも広がっている。このような動きは、もちろん新興国国内の所得分配に影響を与えるだけではなく、新興国に仕事を奪われた先進国の中間所得層の相対的低下を生み出すなど、先進国の所得分配にも影響を与えている。そしてこれらの変化は、 国際的には貿易をめぐるコンフリクトを生み、国内的にはポピュリズムの台頭などの政治的コンフリクトを生んだ。この国際的コンフリクトと国内的コンフリクトは互いに関連し合い、増強してきているように見える。
このようなグローバリゼーションの新たな展開を背景として、本研究では、日本をリードする国際経済学研究者の研究資源を投入してICTの発達を通じたデジタルエコノミーの進展が世界経済にどのような影響を及ぼすかを国際経済学の視点から分析する。それによって新たな知見を得るとともに、近未来のグローバル経済のルール・メーキングや経済政策論のための学術的根拠を整備し、さらには国際的・国内的コンフリクトの発生を最小化する経済システムの設計を探求する。
各々の研究の進行の度合いや研究の相互の関連性に応じて、他のテーマの研究にも参加する。
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