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選挙演説にみる経済学の一例:なぜ経済学が必要か
石川城太 一橋大学経済学研究科 2004年度広報誌掲載

以前、通勤で利用していた駅の前で選挙に立候補した人がのぼりを立てて一生懸命選挙演説をしていた。そののぼりの一つには「首都高速道路の料金をタダに」と書かれてあった。首都高速道路は年中渋滞しており、「わざわざ高いお金を払って高速道路に利用したのに困ったものだ」とか「こんなに混んでいるなら高速料金を返せ」などというような愚痴をよく耳にする。

空の写真 このような状況だからこそ、その選挙候補者も彼の政策の目玉の一つとして、高速料金をタダにするということを考えたのだろう。皆さんはこの政策をどのようなに評価するだろうか? (私の上記の推測が正しいなら)経済学的な見地からすると、実は彼の政策は「とんでもない」ということになる。なぜか?これをちょっと考えてみよう。まず、首都高速道路はなぜ渋滞するのだろうか。答えは簡単である。高速道路のキャパシティをはるかに超えた台数の車が利用するからである。

これを経済学では、首都高速道路に対する超過需要が生じているという。超過需要のもとでは、その超過需要を解消するためには、価格が上がらなくてはならない。たとえば、オークションを思い起こして欲しい。一つのモノがオークションにかけられると、購入希望者が一人になるまで価格が競り上がることになる。つまり、超過需要が無くなるまで、価格が上がるのである。

したがって、首都高速道路が混んでいるという理由からその料金に文句をつける人は、実は「もっと高速料金を上げろ」と主張すべきなのである。高速料金を上げていけば、高い値段でも本当に首都高速道路を利用したいとする人のみが利用することになり、最終的には首都高速道路のキャパシティに見合った台数に到ることになる。すなわち、渋滞は解消する。

空の写真 選挙の候補者が考えたような「首都高速道路の料金がタダになれば利用者は喜ぶ、あるいは恩恵を被る」というのはあまりにも短絡的な思考である。経済学的視点からもう一歩踏み込んで考えれば、その帰結は状況を悪化させる、すなわち渋滞をもっと激しくしてしまうということになる。

しかし、高速料金を上げれば万事うまくいくと考えるのも早計である。高速料金を上げることにより、今まで首都高速を利用していた車の何割かが普通の道路を利用するようになる。したがって、高速道路の料金引き上げは普通の道路の渋滞をひどくすることになる。

ここまで見通すと、もう少し抜本的な対策が必要となる。超過需要がある場合、もっとも単純は方策としては、価格を上げるという対策以外にも供給を増やすという対策もある。したがって、首都高速道路の拡充も一つの方策となりうる。

この場合、たとえば(1)政府が建設などに介入するべきか、(2)もし政府がお金をつぎ込むなら、それを借金でまかなうのか、あるいは税金でまかなうのか、(3)経済がどのような状況にあるときに首都高速道路を拡充すべきなのか、などの問題も経済学がカバーする領域となる。

もちろん皆さんは経済学など全く勉強しなくてもこの先立派に生きていくことはできるだろうし、経済学自体がすぐに皆さんの役に立つということは少ないかもしれない。しかし、少なくとも経済学的な思考は、いま見たようにこれから社会を生きていく上で皆さんの視野を大きく広げてくれることだろう。是非とも経済学にチャレンジして欲しい。完

石川城太(一橋大学経済学研究科)一橋大学経済学研究科2004年度広報誌掲載「選挙演説にみる経済学の一例:なぜ経済学が必要か」

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